梶原大先生サンプリング的連続妄想小説 

【永田ユージ対バカサバイバー青木 その2】 
 驚いていた。
 自分の身体がこれほどすぐ手玉にとられたという実感は、先輩レスラーにもんで貰ったニュージャパンの昔にもなかったと、呆然とする数秒が、いやおうもなくユージを支配した。
 これがストロング・スタイル(実力派)の柔術か……更に総合チャンピオンともなると、これ程のものなのか!
 キー・ロックに固められた右腕は、蒼白から、またたくまに自分の目にさえ珍しいような白蝋色に変じた。同時に、最初の苦痛迄が急速に薄らぐのが、なお不気味だ。
 とにかく、寝技は未熟というより、まだ型も何もできていないユージだった。レスリングの要素にも助けられて立技へ、とにかくふりほどいて起きることが先決だったが、サバイバー・青木は巧みに腰でマットを廻り、ユージのあがきに手がかりを全く与えない。
 寝技の未熟に乗ぜられ、青木が残る左腕まで殺しにきて、なかば殺されかかると、ユージは無感覚になっていた腕をすら鋭く貫いた激痛を代償に、しゃにむに上体をはね起こそうとした。斜め正面に青木の冷静に事を遂行する技術者めいた顔があった。
 痛みでもたつく右腕が、早くも青木にとられる。頑張ろうとすれば、間違いなく関節のはずれる角度からの非情の締めが、しかも立ち上がろうとするユージを見舞う。立つ不利を悟り、左腕でクラッチをしようと亀のようにうずくまったユージを、地ならしをするように下から拳爆弾!
 顔面を平に潰されても右腕を取られまいとするユージ。顔が生温かい。血糊だった。自分の皮膚が、段々剥れていく感覚がした。
 その真紅が、はらはらと伝っていく。観衆はもう狂喜乱舞した。期待のシーンが思ったよりも早く現出したのだ。
「青木、やれ、もっとやれ!」
「殺っちゃっていいんだよ!」
 うわずった満場のわめきが、更なる血を、残酷を要求した。
(続く)