梶原大先生サンプリング的連続妄想小説 

【永田ユージ対バカサバイバー青木 その3】
 まさにバカ・サバイバーの異名が似合う青木の速攻の嵐に、だが……吹き消されぬどころか、ゆらめきもせず静かに燃える一点の鬼火を、ユージは見ている。
 何者だろうと、アマレスとニュージャパンで鍛えて天下を取り損ねた体を素手で殺せるものじゃない。腕の一本ぐらい折られても、それなら片腕でやってやるさ……この根性の鬼火だ。
 無残で一方的な試合は、5分ほどしか経過していなかった。そもそも、青木の頭の中には、地味な関節技での勝ちの意志はない。目標は、ユージを鮮血に染めあげてマットの上に沈める勝利だけであった。満場の観衆が、それを要求していた。
 めざすその血染めの勝利だが……思ったほど容易ではないと、まず気づいたのは、ユージを支配し殴り続けていた青木だった。観衆は、青木を信頼しきっていて気づかず、青木が残忍な仕事に適当に手間をかけて、自分たちを楽しませてくれるものと思っている。
 痺れる手応えがあり、だがユージの目は死んでいない。
 青木の拳を顔で受け止めていたユージは、チャンスを窺っていた。徐々に体を前の方へ倒し、危機を脱していたのだ。人間は、2つの事を同時にできない。誰かが、そんなことを言っていた。青木の餌にユージは食いつかなかったのだ。顔面を殴られつつも、腕の危険は消えた。
 ああ、大丈夫だな……他人事のようにユージは思っていた。いつの間にか体位が、正常位に戻っていたことへの安堵か、腕や顔の痛みは消えていた。気づいたら、レフェリーがスタンドからの対戦を要求していた。
 青木はユージの腕を振りほどき、すぐにKOすることを決意した。大会運営者側の思惑が、ユージには透けて見えた。
 そうはさせない…。血戦の門が、また開いた。