OASIS「Dig Out Your Soul」を今年一番の作品だと押す理由

7作目「Dig Out Your Soul」を聞き続けている。欠点は、沢山ある。音質も、R&B系やメタリカの新作に比べれば良くない。相変わらず、語彙も少ない。歌詞も意外と単純な言葉が多い。中学生でも、ちょっと英語の辞書を引いて調べれば分かる。楽器の腕も上がってる、でもどう考えたって日本のバンドにすら負けてる部分が多い。バンアパACIDMANの方が上手いだろう。メロディーの幅も広がったけど、新機軸は無い。せいぜい、サビの繰り返しを減らした程度。サイケだけど、コンセプトも無い。例を挙げればキリが無い。でも、今年聞いたCDの中で一番好きな作品だ。それは、何故なのか。
「否定」が全く無いからだ。作り手の個人的体験から必ず生まれるものである歌詞からは、否定が全く感じられない。歌詞の一部に「not」とあっても、曲から受ける印象は「何かの否定」というものにならない。かといって、「俺が励ますからお前も頑張れ」という上から目線の無責任なメッセージめいたものも無い。「誰かを愛してます」のラブソングにもなってない。そして、「生きろ」とも歌わない。
歌を歌うために前提としての詞はある、ちょっとしたストーリーもある。かといって、アホ丸出しな語呂合わせものになっていない。こちらがどういうことなんだろうと解釈の出来る、『余白』がきっちりある。これは、すごいんじゃないか。
ニュースやテレビ、新聞、世間、人間関係、生きれば必ず接する「否定」。自分の行動の結果や考えでも、必ず生まれる。ダメなんじゃないか、うまく行くのか、何も分からない、などなど。なるだけ消耗しないように気をつけているのだけども、どうしても疲れてしまう。「誰が殺された」、「交通事故〜」、車のクラクション、誰かの悪口、ネットでどっかで読んだ「あいつはつまらない」、色んな否定から自己を遮断したくなるが、生きる為にはそれは出来ない。生活していて必然的にあるものが、彼らの歌からは無い。癒しとかいう胡散臭いものを求めている訳ではないが、彼らの歌を聴くと疲れない。
今作の日本盤のボーナストラックに、「I Believe In All」という曲がある。曲がいいというよりも、15年以上もバンドをやってきて、色んなバンドに悪口と言いがかりをつけ、自分よりも遥かに人間を沢山見てきた彼らがこう歌ったことに驚きがあった。嬉しいことも悲しいことも、業も欲もあらゆるものを引き受けて、俺が歌うんだという傲慢さはここにはない。ただ『俺は全てを信じている』と自然体で歌う彼らに、否定の無い強さを見た。
だから、押せる。